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3.4.1 政府教育支出のGDPシェア

ここでは,政府教育支出のGDPシェアを教育の質的な側面を示すものとして取り扱うことにする.なぜ政府教育支出を教育水準の代理変数として選択したのかといえば,政府の教育支出が高まりは,教育施設や設備を充実させ,結果として質的な人的資本の蓄積につながると考えられるからである.データ系列は,世界銀行の統計により作成した.各経済地域の60年から90年までの教育支出のGDPシェアからその平均値をもとめた.その際,教育段階の違いを考慮するため,初等,中等,と2つに分類を行っている.推計結果が,表gifである.

  
表: 政府教育支出の効果

ここでの推計からは,いくつかの興味深い結果を得ることができた.一つ目は,初等教育への政府支出は,経済成長に対して負の効果を持つことが明らかになった点である.これまでの多くの研究では,政府教育支出の経済成長に対する効果はプラスであるとする結果が主流である.しかしながら,特に初等教育に対する支出はマイナスの効果を持つことがこの結果より得ることができたのであるgif

2つ目は,東アジアにおける60年における一人当たりGNPの係数は正の値を示しているが,その統計的な有意性が低く,東アジア経済にも収束現象が見られる点である.

3つ目は,東アジアの初等教育と中等教育の関係が,OECD諸国と類似している点である.表gifは,それぞれ初等教育と中等教育の相関係数を求めたものである.全ての国を含めた場合の初等教育と中等教育の間には,それ程有意な関係は見られていない.けれども,東アジアとOECDでは,初等教育と中等教育との間に,強い相関が見られているのである.このことは,両地域の政策方針の中に,初等教育だけではなく中等教育への投資を拡大することで,より教育水準を高めようとする意図が考えられる.つまり,東アジアは先進国と同様に,質的な人的資本蓄積へ強い関心があったということがこの結果から伺えるのである.

  
表: 各地域の初等教育と中等教育の関係

ここでの結果を考察するに,なぜ先行研究と整合性を持たない結果が得られたのだろうか.第1の理由として考えられるのは,データ系列の問題点である.今回の推計では,世界銀行の統計をもとにして政府教育支出のGDPシェアを求めている.このデータ自体や加工の仕方に問題があった場合,結果が大きく違ってくる可能性が高いと考えられる.

第2の理由は,政府教育支出はフローの変数だということである.人的資本はストックの概念であり,代理変数としては少し問題があるのではと考えられる.

第3の理由は,政府教育支出は,教育水準の代理変数としては不十分だということである.たしかに,教育支出が高まれば,教育設備が充実し,教育水準の向上にプラスの寄与をもたらすと考えられる.しかし,その支出が新しい校舎を建てたり,校舎の増改築などに利用されるなど,教育の質とは関係の無い投資に使われる可能性があるgif.つまり,ただやみくもに教育支出を拡大したとしても,教育水準が向上するとは限らないのである.その支出が何に使われたのかが重要だと言える.もし,政府教育支出を人的資本の質的な代理変数として用いるならば,その支出内訳を見て,何にどれだけ使われたのかも考慮する必要があると思われる.

よって,教育水準を適切に取り扱うには,政府教育支出では不十分である.そこで,より適切に教育水準を示すと思われる指標として,各人が中等教育と高等教育に費やした年数を用いることにする.



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST