日本におけるベンチャー企業育成について

 

資本市場の機能活用の視点から



冨田賢 総合政策学部3年

 

岡部研究会研究報告書

1995年度秋学期

 

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概要

 ここ数年,日本において,ベンチャー企業への関心が高まっており,その育成が叫ばれている.これは日本経済がバブル経済崩壊後の長期の調整過程を経てもなお先行きの明確な展望を描けない状況にあり,またアジア新興国の目ざましい経済発展によるメガ・コンペティションの時代において産業の空洞化にさらされているからである.このような状況を打開していくためには,研究開発型の若くて新しいベンチャー企業の育成が必要である.しかし,日本におけるベンチャー企業の創業率は,米国に比べて低い.その原因としては,わが国の社会風土とともに、有担保を原則とする間接金融中心の日本型金融システムが指摘できる.ベンチャー企業は,その政策からいって信用力や担保力に乏しいため,これまで比較的良く機能していた日本型システムでは,こうした企業が必要とするリスク・マネーの供給に適合できない面が少なくない.この間,米国でのベンチャー企業の資金調達の状況をみると,金融機関からの借り入れが少ない一方,資本市場からの調達のウエイトが高く,ベンチャー企業の創業・成長に際して,資本市場の機能が有効に活用されている.こうしたことから考えると,日本においても,ベンチャー企業の創業を促進するには,資本市場の機能を拡大,充実させ,それを通じて産業の活性化を図っていることが求められる.そのためには,(1)政府が株式市場の上場基準などの規制を一層緩和するほか,(2)一般投資家に自己責任原則を貫徹させる,(3)証券会社が設定している独自の株式引き受け基準を緩めてベンチャー企業を発掘させる,(4)ベンチャー・キャピタル(ベンチャー・ビジネスに対する資金供給および企業経営に関する総合コンサルティングをおこなう金融会社)の積極的活動を促す,(5)比較的リスク・テークしやすいポートフォリオを組成できる機関投資家の活動をより積極化させる,(6)社会風土をベンチャー企業を生みやすい風土へと転換する、などの一連の意識改革ないし行動改革が必要である.(なお本稿の問題意識と基本的な論点は末尾の資料1を参照.)

<キーワード>

ベンチャー企業,資本市場,日本型金融システム,米国,市場原理,ベンチャーキャピタル


目次

 

1 はじめに

 1.1 問題意識の出発点

 1.2 本稿の目的

 1.3  ベンチャー企業とは?

2 なぜベンチャー企業育成が必要か?−産業構造転換の必要性

 2.1 第三次ベンチャービジネス・ブーム

 2.2 長引く平成不況−新産業への期待

 2.3 メガ・コンペティションの時代−産業空洞化懸念

3 育ちにくい日本のベンチャー企業

 3.1 日本の低い創業率と未発達の店頭市場

 3.2 日本におけるベンチャー企業創業上の問題点

4 高度経済成長を支えた日本型金融システムの限界

 4.1 その特徴とキャッチアップ・モデルとしての評価

 4.2 リスク・マネーを供給できない日本型金融システム

5 米国ベンチャー企業の資金調達

 5.1 日本企業の調査結果

 5.2 米国システムの日本への導入−資本市場の機能活用

6 ベンチャー企業育成のための環境整備(資本市場関連) 

 6.1 政策当局−より一層の規制緩和を

 6.2 投資家−自己責任原則の貫徹を

 6.3 証券会社−ベンチャー企業の発掘を

 6.4 ベンチャーキャピタル−早い段階からの資金供給を

 6.5 機関投資家−ベンチャー企業への積極的投資を

 6.6 社会風土−価値観の転換を

7 これからの金融システム−市場メカニズムの尊重

8 おわりに



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