近年における日本の金融政策とその評価

−ゼロ金利ならびに量的緩和政策−

 
 
総合政策学部2年 田中竜二郎
総合政策学部2年 加藤 祐子
 

 

岡部研究プロジェクト研究報告書
2005年度秋学期(2006年2月改訂)



 

岡部光明研究会研究論文 2005年秋学期(2006年3月改定) 本稿を作成するにあたり、丁寧で親切なご指導をしてくださった岡部光明教授(慶応義塾大学総合政策学部)に深く感謝したい。 また研究会のメンバー、先輩方にも有益なコメントをいただき感謝している。 なお、本論文はインターネット上によってもダウンロード可能である。(http://www.okabem.com/paper/
電子メールアドレス:田中 s04525rt@sfc.keio.ac.jp、 加藤 s04199yk@sfc.keio.ac.jp

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概要

日本では、消費者物価(前年比)が1999年度以降7年間にわたってマイナスを記録し、ごく最近まで緩やかながらもデフレーションが続いてきた。こうした状況に対し、日本銀行はデフレ克服のための金融政策を展開してきた。本稿では主として「ゼロ金利政策」およびその後の「量的緩和政策」を取り上げて分析した。

第1部では、これまでの金融緩和政策が景気回復にどの程度寄与したかを検討した。具体的には、@ゼロ金利政策は必要であったのか、A2000年のゼロ金利政策の一時的解除は正しかったのか、B量的緩和政策は景気回復に寄与したのか、という3つの問題である。その結果、次の結論を得た。(1)1999年から実施されたゼロ金利政策はタイムリーなものであったと評価でき景気回復に寄与した。(2)しかし2000年に行われた一時的なゼロ金利政策の解除は、アメリカでのITバブル崩壊の影響などもあって、その後の景気後退につながった。(3)2001年から採用された量的緩和政策は、日銀による緩和継続のコミットメントが長期金利の引き下げに寄与したものの、マネーの供給量増加そのものによる効果は薄かった。今後の金融政策運営においては、@日銀による巨額の国債保有に伴うリスク(国債価格の値崩れ・長期金利の急騰懸念)、A量的緩和政策の解除プロセスの明確化、B解除後にデフレ懸念が再発した場合の悪影響、などを考慮する必要があり、したがって量的緩和政策の解除は段階的に行われるべきであり、解除後もゼロ金利政策を継続すべきであることを主張した。

第2部では、世界の金融政策の歴史において革新的と評価される日本銀行の量的緩和政策に焦点をあてた。量的緩和政策とは、@政策誘導目標をそれまでの「短期市場金利」から「日銀当座預金残高」に変更すること(量への転換)、A消費者物価指数の前年比上昇率が安定的に0%以上になるまでこの金融調節方式の継続を日銀が約束すること(コミットメント)、を主たる内容とする政策である。この政策は、金融システ ムに対する不安を緩和する役割を担った側面があるが、ここではデフレ対策としての側面を中心に、まずその効果の波及経路を整理した(59ページの図3として総括)。次いで、統計資料や先行研究に基づき政策効果を評価した。その結果、次の結論を得た。日銀当座預金(マネタリーベースのうち日銀が比較的容易に操作可能な部分)を大幅に増加させる措置は、@短期金利を極限まで低下させた。しかし、Aポートフォリオ・リバランス効果(金融機関がリスクを伴う資産の割合を復元することによる効果)は金融機関が不良債権問題を抱えていたためほとんど作用しなかった。また、B期待効果(デフレ心理の後退に伴う支出の増加)も見られなかった。一方で、C時間軸効果(政策のコミットメントが中長期金利を一段と低下あるいは安定化させること)は実証研究で検出されており、これがある程度景気を下支えした可能性がある。今後、量的緩和政策の解除条件が整えばそれに従った政策運営をしていくことが日本銀行に期待される。

キーワード: キーワード:ゼロ金利政策、量的緩和政策、ポートフォリオ・リバランス効果、コミットメント、時間軸効果、波及経路
        

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