協同組合組織のあり方に関する契約理論的分析

農業協同組合(JA)を対象にして

 
 
千野 剛司
総合政策学部3年

 

岡部研究プロジェクト研究報告書
2004年度秋学期(2005年2月改訂)



 

本稿の作成にあたっては、日頃から定年で親切なご指導をしてくださった岡部光明総合政策学部教授に深く感謝と敬意を表したい。 また岡部研究会のメンバーには、研究会や共同研究室(κ201)での議論において有益なコメントを頂き感謝している。  本稿はインターネット上(http://www.okabem.com/paper/)においても全文アクセス及びダウンロード可能である。 本稿に関するコメントや問題点等は、著者にご連絡いただきたい (電子メールアドレス:s02553tc@sfc.keio.ac.jp)。

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概要

近年, 我が国の農業は, 株式会社の農業参入が試験的に実施されるなど, 抜本的な改革に向けた道を歩み始めている. こうした中, 世間では改革に対する肯定的議論がなされる一方, いまだに日本農業に対する悲観的意見も根強い. このような改革に対する議論はどのように評価すればよいのだろうか. 何よりも重要なことは, 日本農業の本質的・根本的問題に立脚した改革であるのかどうかを判断すること, すなわち改革は何を解決し, 何が解決されないのかを理解することである. そこで本稿では, まず, 日本農業の本質的・根本的問題を機能上の問題と構造上の問題に分類し, 厳密な議論を行うことで問題意識の明確化を行った. その結果, 株式会社の農業参入といった画期的な試みや, 今後のグローバル化の進展といった外生的な要因によっても解決されないであろう問題が農業協同組合(以下, 農協)制度に関する諸問題であることを明らかにした. 次いで, このような農協制度に関する諸問題を分析するために本稿では経済学的なアプローチを採用し, 近年発展が著しい契約理論を援用して以下の2つの分析を行った. 1つ目は, 農協の公的組織としての性質から, 農協と行政当局の関係におけるソフトな予算制約の問題を分析したものである. 分析の結果, @農協経営者は損失が発生しても当局が救済してくれることを予想するため, 適切なインセンティブを持ち得ないこと, A当局が仮に事前に救済しない旨を表明した場合でも, 経営者はこれを信じず, したがって適切なインセンティブを持ち得ない可能性が大きいこと, Bこの問題を解決するためには, 農協を複数の組織に分割し, 単一組織に集中しているリスクを分散させ, それによって当局が農協を救済する必要性を低下させることが効果的であること, がわかった. 2つ目は, 農家の農協に対するコミットメントがもたらす影響について, 両者の獲得する利益の観点から分析したものである. その結果, 農家の農協に対するコミットメントの程度について, @農家の利益最大化が目的であれば, コミットメントは最小限にする必要があること, A農家が農協に強くコミットしている現状は, 農協の利益最大化をもたらす一方, 農家の利益は最大化されないこと, B高度経済成長期以前の段階においては, 農協の利益最大化=農家の利益最大化であったため, 農家は農協に強くコミットするのが得策であったが, そのような環境でなくなった現在では, 農協の存在はむしろ農家の利益を減ずる大きな要因になっていること, がわかった. 最後にこれらの分析結果を踏まえ, 農協改革に向けた1提案として, 農協を複数の組織に分割する一方, 農家に対してどの組織に加入するのかという選択権を与えることが望ましいことを述べた.  

キーワード:農協, 契約理論, ソフトな予算制約の問題, 農家の利益最大化
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