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5.1 結論

本稿では,東アジア(NIEs,ASEAN,日本)における高成長の源泉についての実証分析を行った.まず,各国の時系列データを用いた成長会計による経済成長の寄与度分析からは,資本寄与が最大となり,TFPの寄与は非常に低いとする結果が得られた.そこで,(1)資本と労働力の稼働率,(2)資本ストック推計値の違いによるTFPへの影響,(3)住宅を資本ストックに含めることによる影響,(4)経済の発展段階とTFP寄与度の関係,等を考慮してTFPの推計を再度行ったが,投入の増大によって経済成長のほとんどが説明される結果が再び得られた.TFP寄与が低く推計された主な理由としては,東アジアの発展段階が,TFP寄与が重要な位置を占める程度にまでは至っていなかったことが重要な要素であると考えられる.よって,東アジアの高成長に対するTFPの寄与度は,低かったと結論づける.

一方,内生的経済成長モデルを基本にした回帰式にクロスカントリーデータを当てはめた分析の場合,新古典派が想定する収束現象は東アジアでは見られなかった.つまり,資本と労働などの投入の増大やTFPの上昇以外の要素が,高成長へ寄与した可能性が十分に考えられる.

東アジアの高成長の源泉としては,1960年から90年までの間に達成された質的な人的資本の蓄積が重要な要因であると考えられる.ただ,教育の普及しか表さない就学率では,高成長を説明することはほとんど出来なかった.その結果を踏まえ,教育水準に関する側面を重視して政府教育支出を加えた場合,高成長の一部が説明される結果が得られた.ただし,質的な人的資本の代理変数としては最適なものではなく,より適切に表現する指標が必要であると思われる.

さらに,初期段階における質的な人的資本の水準も,その後の高成長を説明する要因であると考えられる.特に,初期段階においては,学校登録率に表されるような教育の普及の方が教育水準に比べてより重要であることが確認された.つまり,高成長を達成するためには,まず教育の普及をすすめ,次に教育水準を高めていく政策が重要であると考えられる.さらに,国際的解放を通じた厚生の改善も,東アジアの高成長を説明する主要な要因であることが明らかになっている.

本稿での分析により,東アジアの奇跡を産み出した背景には,60年以降の質的な人的資本の蓄積と,初期段階の教育の普及と教育水準,早い段階で輸出指向政策を採ったことによる経済厚生の改善等が,重要な要素としてあったのではと考えられる.この結果は,高成長を達成しようとする国にとって,有益な指標になると思われる.

ただ,これから先に東アジアが高成長を維持していけるかどうかは,この結果からは推測できない.新古典派が想定するように,投入の増大による成長はいずれは頭打ちになるからである.今後,東アジアが高い成長を保ち続けるためには,これまでに蓄積された人的資本を基礎として,技術進歩を産み出していく他にはない.このためには,高成長を終着点と捉えるのではなく,更なる努力を積み重ねて行く必要があると思われる.



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST