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2.7 まとめ

本節では、成長会計についての基本的な説明を行い、TFP寄与度の推計に関する2つの研究をサーベイした上で、実際にTFPを推計した.そして、アジア経済地域の高度経済成長の源泉にはTFP寄与の度合いは低いとするクルーグマンの指摘を支持する結果が得られた.これは、TFPの推計値に関する4つの疑問点を考慮したとしても、アジア経済地域における経済成長のほとんどは資本と労働力といった投入の増大によって説明がつくとする結果が得られているのである.

しかし、この結論からは、次の2つの疑問点が浮かんでくる.第1に、新古典派経済成長モデルの重要な特徴の1つである資本の限界生産性逓減を前提とするなら、技術進歩がない場合に、投入の増大のみによって高い経済成長を維持することは理論的に不可能である.ということは、アジア経済地域の高成長の背景には、投入の増大以外の何かが寄与している可能性が十分に考えられる.

第2に、新古典派経済成長モデルの重要な特徴の1つである「収束」(convergence)が見られていない点であるgif.「収束」とは、初期時点では生活水準の異なる国々が、最終的に生活水準が等しくなっていく現象のことである.技術進歩や人口成長率を所与として大きな変化が無かったとするなら、収束現象が実際に実現し,経済成長率は低下しているはずである.しかしながら、東アジアの成長は、非常に高い値を示し続けているのである.

ということは、各経済地域の時系列データを用いた分析では投入量による寄与がほとんどを占めているが、実際にはその他の要因による寄与も大きいのではないかと予想される.この点を確認するためには、(1)時系列データではなくクロスカントリーデータによる分析を行うこと、(2)資本ストックや労働力以外の変数を加えること、などが必要であると考えられる.そこで、次節では、新古典派経済成長論を拡大した内生的経済成長論を基本とし、各国のマクロデータをもちいてクロスカントリー分析を行い、経済成長の源泉を実証分析することにする.



Tomoya Horita
1999年11月02日 (火) 15時39分30秒 JST